折り紙の世界において、いわゆる22.5度系*1は、折り鶴やアヤメといった伝承作品から前川淳さんの悪魔、神谷哲史さんのエンシェントドラゴンまでも含む巨大なカテゴリーです。折りやすいことや多彩な造形ができるのが魅力で、今後も多くの作品が生み出されることでしょう。
著名な折り紙作家の22.5度系の作品を折ったことのある方は、折り図の最初の数ステップで、基準点を折りだす作図的な折り方をした経験があると思います*2。
こういう作品では、大抵は正方形の一辺をa + b√2 : c (a,b,cは整数) に分ける点を折り筋の基準としています*3。例えば、筆者の猫の基準点は1+√2 : 4です。
筆者は、22.5度系作品の創作における最大の障壁は比率であると思っています。創作初心者の方は、比率ってどうやって決めればいいの?という疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。しかし、比率の決定は慣れればそこまで難しい問題ではありません。今回はOrieditaを使って、比率の決め方・作図の仕方の例を紹介していきます。
Orieditaについて
使ったことがない人はぜひダウンロードして、本記事を見ながら実際に作図してみてください。
起動すると、このような画面になります。
多くの機能がありますが、本記事では赤丸で示した、制限された角度の折り筋を引く機能だけ使います。
赤丸のボタンをクリックし、画面上でマウスの左クリックでドラッグすると、折り筋が引かれます。また、右クリックで折り筋を消去します。
例1: ボトムアップ型
部分的なパーツから全体に向かって作品を組み立てていく場合です。
例として、猫を使います。本作では頭→前足→後半身の順で創作しました。
猫の創作過程の記事を読んでいない方は、まずこちらを一読してください。↓
rokishi-origami.hatenablog.com
実際にOrieditaで作図していきましょう。
ステップ1で、グリッドに沿って線を3本引きます。ここで耳の点が決まります。
ステップ2以降では、前のステップでできた交点を次々に使って新たな線を引いていきます。
ステップ5で前足の位置が、ステップ6で背中の曲がりが始まる位置が決定しました。
ステップ10で紙の端の位置が決定し、ステップ12では余分な線を消しました。このようにして、本作の基本的な折り線を作図することができます。
後は、22.5°-67.5°-90°の三角形の辺の比を用いて、適当に補助線を引いていけば最終的な比率が分かります。
実際に折るときは数値計算して基準点を定規で測ってもいいですし、神谷哲史さんの「比の折り出し検索スクリプト」を使って折り出し方を調べてもよいです。
本作の場合はこのようになります。
ボトムアップ型の場合に重要なことは、比率と紙の端の位置は最後に決定するということです。創作中は、22.5°の線に沿って交点を作る→交点から線を伸ばすという作業を繰り返します。この作業はOriedita上でやってもよいし、紙を折りながら考えてもよいです。どの交点を選べばよいか?というのは難しい問題で、勘によるところが大きいですが、なるべくシンプルに作図できる点を選ぶとよい気がします。
例2: トップダウン型①: 展開図決め打ち
折り紙創作に慣れてくると、最初から作図したい展開図を思い浮かべられる場合もあります。その場合は、作図さえできればよいわけです。
鶴の基本形や魚の基本形といった、伝承基本形を基に創作する場合もトップダウン型と言えます。
例として、フラミンゴを使います。
rokishi-origami.hatenablog.com
筆者がフラミンゴを作った時は、鶴の基本形を基にしてヒダを追加した展開図を思い浮かべていました。
こちらもOrieditaで作図していきます。
ステップ1で鶴の基本形の展開図の左半分を描きました。ステップ4、5で紙の端を決定しました。
後は補助線を引いたりして基準点の比を調べて、実際に折ってみればいいわけです。
フラミンゴの場合は、1 : √2の長方形を並べていけば、1 : 4+5√2であることが分かります。
例3: トップダウン型②: 比率決め打ち
折り紙作品でよく使われている比率から、好きなものを選ぶ方法です。
宮島登さんの記事「文系作家の行き当たりばったり創作法」の、「3. 角の配置を決める」でも紹介されています。
メジャーな比率をピックアップしてみました。
筆者の作品で言うと、aはキリン、bはインドサイ、dはリス、狛犬、eはシベリアンハスキーに当てはまります。
rokishi-origami.hatenablog.com
fは鶴の基本形の幅と同じ幅の領域を追加した構成で*5、袋井一樹さんのダルメシアンで使われています。
さらに、メジャーな比率の中で交点を作って線を引くという作業を繰り返せば、もっと複雑化することができます。
例えば、dの1 : 1というもっとも単純な比率を使っても、これだけいろいろな交点が発生します。
これだけバリエーションがあるとどれを使えばよいか迷ってしまいますが、折り紙作家の折り図を見て、どの比率が使われているか調べてみると参考になるでしょう。
最後に
必要に応じて様々な比率を使えると、創作の幅が一気に広がります。
Orieditaおよびオリヒメはめちゃくちゃ便利なので、折り紙創作をしたい方はぜひ使ってみましょう。
本記事の内容はあくまで筆者の例なので、他の人がどうやってるかは分かりませんが、似たような感じなのではないかと思います。
余談
- 本記事では22.5°系について書きましたが、別に22.5°にこだわる必要はありません。結局のところは、小松英夫さんが提唱している「折り線トポロジー」から好きなものを選べばよいわけです。origamiplans.hatenablog.jp
- 本記事で示した作図のプロセスは、他人の作品の展開図の比率を調べて展開図折りをする際にも使えます。
*1:22.5° (90°の1/4) の倍角の折り筋からなる基本構造を持つ折り紙作品のこと。慣用的な言葉であり、厳密な定義はないと思います。
*2:何の話だか分からない方は、例えば前川さんの「本格折り紙: 入門から上級まで」に掲載されている龍を折ってみると良いでしょう。
*3:数学的な背景は、ようこそ折り紙のホームページへ 掲示板過去ログまとめに書いてあります。
https://komatsu.origami.jp/misc/meguro-bbs-log/2007-02-18.html
*4:森末圭さんが、ボトムアップ・トップダウンと呼んでいるのを真似しました。
私の創作を変えた2人の異邦人 Two Foreigners Who Changed My Creation|Kei Morisue / 森末 圭 / 森 魔鬼